文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2019/07/04(金)

有栖川駅へ取材へ行く。毎月、嵐電沿線の各駅の街をまわってエッセイを書くこの連載を始めてから、月に一度は必ず見知らぬ土地に身を置くことになった。ここに住んだらどんな気分だろうということを毎回想像する。

自分は本当に容量が少ない人間だと思う。体力も、考える力も、覚える力も、とても限られている。覚えなくても大丈夫な人の名前はいつまで経っても覚えない。覚えていなくてはいけない人の名前すら忘れるのだから、そこに充てる余力がないのだ。

そんな自分は放っておくと同じ場所で同じ行動を繰り返すネズミみたいな生活をしがちだ。それはそれで安心するのでいいのだけど、このように刺激をもらう機会があると、それはそれで意味があるなと思う。ただ、やはり帰ってくるとすごくほっとする。

2019/07/03(水)

久しぶりに街へ出て打ち合わせ。一端の社会人として生きているような気持ちになる。だけど、帰ったら息子に「プール帳にはんこが押されてなくて入れなかった」と泣き顔で言われた。送った請求書も切手が貼られていないと返ってきた。次男のおむつも一枚もなくなっていた。
世の中には手順が多すぎて、ひとつひとつこなすのに必死だ。たまに、編み目を一個飛ばしてしまうみたいに穴を空けてしまい、セーター一枚が台無し、みたいな感じになり、とても凹む。「がんばってるのに」という言葉は意味をなさない。結果がすべて。だからせめて笑っていよう。それが結果になる。ていうか、穴が空いててもいいじゃないか。ロボットじゃないんだし。ていうか、今は夏なのだし。

2019/07/02(火)

溜まっていた事務仕事をいろいろと片付け、およそ2週間ぶりにプールへ行った。30分だけ泳いで帰る。ジムにいる方はどうして友達ができるんだろう。もう通い始めて1年が経とうとしているが、友達どころか知り合いもできない。わたしよりあとに入ってきた若者は、すでに中年女性や中年男性と声を掛け合っているというのに。わたしは自分が思っているよりも閉じているんだろうな。

『経営者の孤独。』が、クラウドファンディングで支援くださった方々の手元に届き始めて、なんだかそわそわしている。それでいて、「やるだけやった。あとは読者と本の関係に委ねよう」という気分。

本当に、ありがたいことだ。

2019/07/01(月)

原稿を2本書き、京都新聞の記者の方に書籍『経営者の孤独。』に関する取材を受けた。ありがたい。「こんなに緊張するのは、山田洋次監督への取材以来です」と言われた。なぜだろう。温かいルイボスティーを出した。胃腸が弱いので、あったかいのが助かります、とのことで、胃腸が弱いのはわたしと一緒だな、と思った。取材をするから胃腸が弱くなるのか、胃腸が弱い人だから取材をするのか。因果関係はよくわからない。

2019/06/30(日)

朝起きたら雨が降っていた。梅雨だ。長男をプールに連れていこうと思ったら水着を学校に忘れたらしく行けなかった。少し仕事をして、それからずっと本を読んでいた。二冊読み終わる。あともう少しでもう一冊読み終わる。

ほおに赤いかぶれができている。最近はよく肌がかぶれる。録画した連続テレビ小説を見ていると、なぜ女優さんはこんなにいつも肌がきれいなのかなと不思議に思う。肌が荒れる日とかないのかな。ストレスも多いだろうし、忙しいだろうに。肌が荒れると治してくれる、凄腕のお医者さんがいるのかもしれない。

夕方、茅の輪くぐりに行った。私たち以外ほとんど人がいなかった。鬱蒼とした緑に覆われた階段を、子供たちがさっさとのぼっていく。茅の輪をくぐり、名前を書いた人型を渡し、それからお参りをした。書籍が無事発行されたことを報告する。
「これからもどうぞ見守っていてください」

2019/06/29(土)

アパホテルで2時に寝て、5時に起きる。そこから1時間ほどうだうだとしていたらまた寝てしまって、起きたら8時半だった。10時に編集者と喫茶店でモーニングを食べ、打ち合わせ。午後はヒカリエに小倉ヒラクさんの展示を観に行く。
ラクさんがお友達をわたしたちに紹介してくれるときに「僕の親友なの」と言っていたのがすごくよかった。そのお友達のことを心から尊敬していて大好きなんだなという言い方。お二人が別れるとき、「いい報告を聞けることを願ってるよ!」とヒラクさんが言ったのが印象的だった。ああ、友達っていいもんだなあと思う。お味噌とヒラクさんの本を買って帰る。

帰りの新幹線のなかで自分の本を読んだ。『経営者の孤独。』と『戦争と五人の女』。まだ客観的に読むことはできないけれど、自分の文章に涙が出た。わたしはよく、自分の文章に泣いてしまう。感動するのだ。だって、誰よりもわたしが求めていた文章なのだから、自然なことだと思う。ちゃんと泣けてよかった。善き友として、みなさんのそばに置いてもらえますように。

2019/06/28(金)

東京出張。ポプラ社へ。柳下さん、天野さん、だんごさんと、クラウドファンディングの発送作業をする。全部で169名の方にご支援いただいた。宛名を書きながら、梱包しながら、とてもありがたい気持ちになる。この本を読みたい、手にしたいと思ってくださる方がこんなにいるだなんて、すごい。
8時間の作業のあと、柳下さんと天野さんと打ち上げをしにいく。ビールがものすごくものすごくおいしかった。あんなにおいしいビールを飲んだのは、一体何年ぶりだろう?