文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

ただいま(おかえり)

一昨日、二条城の近くのゲストハウス、マガザンにてトークイベントを行った。
実に僕らの初舞台。これで晴れて、公だ。大いに自棄ってわけじゃあないよ。
まったくもって、うれしいね。

終わってから、客席にいてくれた馴染みに、「どうだった?」と聞くと、「いつも隣で話してるのと、変わらなかったよ」と答えてくれた。

それは「いつも通りでおもしろいよ」という意味だったらしいけれど、うん、大事なのは伝え方な。そういうところだよ?


会場はとてもカジュアルな雰囲気で、距離も近くて、とても親密だった。
僕ら文鳥社のこと、マガザンのこと、本のこと、それらをとても楽しみにしてくれたみたいだ。僕らは本で繋がっている。

読書というひとりの行為を知るみんなが集まって、ひとりでなくなるなんて、おもしろいね、って考えながら壇上に僕はいた。

僕は教師として壇上で教えることが好きだし、どちらかというと得意でもあると思うので、トークイベントは苦手じゃない。

でも、今回はトークイベントっていう感じじゃなくて、お正月に親戚が集まったみたいな、なんだかのんびりとくつろいだ時間だった。
ゆったり。

思ったことをそのまま話した。収束も拡散も意識せず、そのまま話せた。
身内の会議でも、もう少し、場と情報をコントロールしようとするけれど、その日はあまりそれもなかった。
いいねえ。

そうか、「いつも隣で話してるのと、変わらなかったよ」っていうのは、そういうことかもしれない。君は正しかったね。

壇の上で話しているとき、まだ、話が終わっていないのに、聞きたいこともたくさんあって、時間だって残っているのに、ふいに「ただいま」って思った。

僕らがいる、ここは、小さなコミュニティ。挨拶ができる距離。
きっとこれが、僕らの本を届ける距離だねって思った。

これを段々と広げていって、そして豊かに耕そう。
だから、ここがスタートで、案外ゴールだ。
ただいまとおかえりは対の言葉だね。

壇の上から、大声を出さなくても聞こえるみんなとの距離に、馬鹿だな、静かに感動しながら、ただいまって思った。
それが、おかえりって言ってくれる人ための言葉だからね。


文鳥社・柳下恭平)