文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018年2月6日(火)

朝、宿に着くとまだ誰もいなくて、iPhoneを見ると岩崎くんから1時間ほど遅れるむね連絡が来ていた。手帳にメモしておいた、教えてもらったばかりのやり方で施錠を空けて中に入る。とても寒い。
電気をつける場所がわからなくて、自然光の中でごそごそと準備する。エアコンのリモコンもなぜかつかないし、アラジンストーブもつけたことがないので暴発したらどうしようと思うと自分でつけられる気がしないし、こたつをつけてコートのまま中に潜り込んでPCの電源を入れた。
バルミューダのポットだけは使い方がわかったのでお湯を沸かして、frescoで買ってきたドリップコーヒーを淹れる。

岩崎くんがやってきて、「今日はマイナス4度らしいで」と言った。
すぐに「昼飯どうする?」と聞いてきたので、おなかが空いているのだろうかと思う。
「どこかに食べに行く」
蕎麦屋は?」
「うん。あったかいの食べたい」
そしてまたもくもくと作業をしていたら、
「きりがいいとこまでいったら教えてください」
と言うので、おなかが空いたんだなと思う(朝ごはん食べてないのかもしれない)。
「いこっか、お昼」
とPCを閉じて、外に出た。

岩崎くんはそのお蕎麦屋さんのことを「めちゃうまいわけではないけど通いたくなる」と言った。岩崎くんは即決できつねを、わたしは少し悩んで鶏なんばにした。
「おばちゃんのほうが大雑把で、おじちゃんのほうが神経質やねん。おばちゃんはどーんって適当に置くけど、おじちゃんは七味とか山椒のふたまで空けて用意してくれる」
ふーんとわたしは言いながら七味をかける。岩崎くんはきつねそばだけで足りるんだろうかとちょっと心配になる。
「あのふたり夫婦なんかな?」
「いや、親子ちゃうかな」
「そうやな。母子っぽい」

そばを食べながら岩崎くんが「あとでル・プチメックのパン食べる?かばんに入れっぱになってたきのうのやつやけど」と言った。あ、やっぱり足りないよなとなぜか安心し、「食べる」とわたしは答えた。きのうのやつでも、焼いたらちゃんとおいしかった。


午後にシティリビングの方が取材に来られた。
同行されていたカメラマンの方が、以前新年会で隣の席になり知り合った福森さんで驚く。福森さんは事前にご存知だったから当然まったく驚いていなくて、すごくてきぱきとしていた。
こたつに入りPCに向かう姿を撮影されながら、
「うん、いいですね」
と言われ、なんだか書いていることを褒められた気がした。

取材をするばかりで、受けるのは慣れていない自分が、しどろもどろ話す姿がガラス窓に映る。「どんな小説を書いているんですか?」と言われて、説明はしたけれども、それは自分の書いているものとまったく別のもののように聞こえた。

編集長さんはコーヒーのドリッパーと青いうつわ、チョコレートをいくつか買っていった。取材先で散財するタイプなんです、と言っていて、取材のたびに身の回りのものが増えていくのはおもしろいなと思う。福森さんが「一冊ください」と言って『100年後あなたもわたしもいない日に』を買ってくれた。写真を撮られた日に作品を持ち帰ってもらえるのは、なんだか特別な感じがした。

それから小説を読み返した。第1章はいちばん読み返した章なので、言葉がすいすい頭に入ってきてしまって、新鮮味がなく抜け落ちてしまう。客観性がもてていないのだろう。無理やり、他の人の目を借りて読んだ。赤で直したいところを、紺で留意したいところを書きとめる。


しまちゃんが来て、家でぬか漬けを漬けているのだという話を聞いた。
「半日くらい手ににおいがついてとれないんです」
と笑うしまちゃんは、外国から来た今日の宿泊客の方が来ると、英語をすらすらと話し始めた。岩崎くんもすらすらと話す。ほとんど何を話しているのかわからない。
ふたりとも立派だな、と思いながらわたしはこたつの中で書き物をした。

しまちゃんが岩崎くんに「これありがとうございました」と文庫本を返す。これ読んだことある?と聞かれて見ると、読んだことのない小説だった。北朝鮮をモチーフにした小説だという。わたしがいま書いている小説と舞台が近いと話すと、ふたりは「へえ」「すごい偶然」と言った。こたつの上に、カバーが外された文庫が置かれることになった。

今日の宿泊客の方はDJをしているらしい。わたしの歌集を受け取り
「きれいな本」
と言っていたと、しまちゃんが教えてくれた。