文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018年3月4日(日)

日曜なので宿には行かず家で過ごす。

ミュージシャンの友人が新譜を出すのでライナーノーツを頼まれていた。その初稿に対する返事が来て、緊張しながら読む。

「昨日からなんどもじっくり読ませていただきました。素晴らしい文章、本当にありがとうございます。
音源を出すにあたって最後の1ピースがかちっとはまったなぁという気持ちを得たり、これからも何だか僕たちはやっていけそうだな、とかそんなことを昨日から考えてました」


わたしが初めて新人賞に出した小説は『七月のための日』という。
それは選評で散々な結果だったので、ショックを受けたわたしはデータごと消そうと思っていたけれど、やはり未練があり残していたので、編集者に渡すことができた。
それを機に自分でも6年ぶりくらいに読みかえしてみたら、確かに拙いけれど悪い小説ではないのではないかと思った。それはわたしが、「私たちの人生は捨てたもんじゃなかったな」と思えるものを目指して書いていたからだと、今日ふと思った。

私たち、というのは、わたしとお母さんのことだ。
韓国人の母は自分の人生を「不幸」だと言った。わたしはそんな不幸な彼女の唯一の「幸福」なのだと言われて育った。彼女が使えるうちの、数少ない日本語で。わたしはその日本語を、もっと育てたいと思った。そのかたちが小説だった。

母はきっとわたしの小説を読むことがないだろうと思いながら、好き勝手書いてきた。
でももしかしたら読まれるかもしれないと今は思う。

明日は午後に宿に行く。やることはたくさんある。がんばろう。