文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/04/15(日)

朝からどうにもやる気が出ない。暗い気持ちだ。理由はないような気もするし、全部が理由になりえるような気もする。気分的なものだと思う。このままベッドで横になっていようかと思ったけれど、それでは何の解決にもならないどころかこの状態が悪くなってしまうような気がして、無理やり歯を磨き化粧をして着替え、PCをリュックにつめて外に出た。力なく歩く。一歩一歩前へ足を出すことはできる。このまま喫茶店まで歩いて行き、そのあとPCを開いて、一文字一文字書けばいつか原稿はできる。理論上はそうだ。どんなに気持ちが塞いでいても、愚直にやるしかない。

100円ローソンの前には自転車がいくつも停められていて、わたしはその合間をくぐって100円ローソンの二階にある喫茶店へと向かう。そのとき、日曜なのにランドセルを背負った小学生の男の子と、その母親らしき女性がローソンから出てきた。女性はミニスカートに黒いストッキング、ハイヒールを履いていて、髪の毛が長かった。彼女は自転車の後ろに息子を乗せると、自分も自転車にまたがった。下着がちらりと見えた。子供の重みでぐらつく自転車をハイヒールでぐっとふんばって支え、長い髪の毛を後ろに勢いよく払った。その瞬間、強い香水の香りがした。男の子がお母さんといられるのがとても嬉しいというように、笑いながら「がんばれ!」と言った。女性は真っ赤な唇で笑った。そして、ぐっとペダルを踏んで、漕ぎ出した。
わたしはそのとき、写真を撮れたらいいなと思った。その光景が鮮烈だったから。


わたしは喫茶店に入り、なんとなくコーヒーではなくレモネードを頼む。液晶画面に向かってもなかなか文字を書くことができなくて、壁にかけられている雑誌をぱらぱらとめくった。

「厳しい心を持たずに生き延びてはいけない。優しくなれないようなら、生きるに値しない」

カーヴァーの『プレイバック』の一節を翻訳した言葉が目に飛び込んで、わたしは手をとめる。そして雑誌を脇に置き、またキーボードを叩き出す。一文字一文字書くしかない。