文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/05/02(水)

寄稿の依頼をいただいたので、その文章に取り掛かった。わたしのこれまでの仕事とか、働き方についてのエッセイだ。何度か書き出してみたが、どの一文も全然だめで、頭を抱える。結局今日は無理だった。

午後は小説にかかりきりだった。1章の改稿を進めている。0から書くのとはまた違う脳の筋肉が動いている気がする。ソファに寄りかかって天を仰ぐ。

夕方、息子たちを迎えに行く前に、大学時代からの友人(東京在住)と近所の喫茶店でお茶をした。彼女は今日はわたしのことを「らん」と呼んだ。いつもは「どもらん」と呼ぶのに。何だろうと思ったら、転職が決まったのだと言った。新卒からずっと勤めていた会社をやめるらしい。それと呼び捨てが関係があるのかはわからない。

最初の一文が全然書けないと言うと、
「らんの文章は書き出しがおもしろい」
と彼女は言った。
「そうかな?」
「そう。たとえば『おめでとうと言って、ブルガは幕を閉じる』とか」
ブルガというのは、大学時代に彼女とやっていたBlue Garden of SCRAPという音楽イベントだ。この書き出しは、その最後のイベントのレポートの冒頭だと思う。

そういえばこのあいだ、blackbird booksさんとトークイベントの打ち上げをしたとき、自分は本を買うとき冒頭の一文を読んで決めるという話をした。
だからこんなに悩むのか、と、寄稿のエッセイについて思う。

「わたしは、自分が読みたいものを書いているんだろうな」
わたしのなかの読者は、今日書いたどの一文にも見向きもしなかった。



彼女は今度から表参道で働くんだと言った。
「給料も下がるし、残業も増えるし、職場も遠くなるんだけどね」
そう言って笑う。
「でも、新しいことをしたかったから」