文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/05/07(月)

連休中はほぼ休むことなく原稿を書き続けていた。連休明けの締め切りに向けて。暗いトンネルをずっと歩いているようだと思う。
そのあいだずっといろいろな人の声が頭のなかに響いてくる。それはほとんど自分が妄想したり、誇張している声だ。その声に惑わされて、壁にぶつかったり、つまずいたり、立ち止まったりしてしまう。

「自分の美意識を、特に大事にしようね」
今日、編集者に電話でそう言われた。少しきつく言いすぎたか、と彼は心配していたけれど、そんなことはない。ぴしゃっと軽く頬を叩かれるように、わたしは目が覚めた。だからとてもありがたかった。

そうだった。灯火は、自分の美意識だった。聞くべきは、自分のなかのもうひとりの読者の声。とてもシンプルなことだ。わたしはそれをもって、前に進めばいい。

編集者から電話でそう言われて、わたしは何度書き直したか知らない原稿をまた書き直す。そうして最後にできあがった原稿が、わたしは愛おしいと思った。その原稿は、OKをもらえた。嬉しかった。もっと多くのひとに読んでほしいと思った。


今日は、徳谷柿次郎さんのインタビュー記事を公開した日でもあった。

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柿次郎さんのこれまでのことを2時間半聞き、その後メッセンジャーでもやりとりをした。編集者はわたしのことを「イタコタイプのインタビュアー」と呼ぶけれど、今回は柿次郎さんの思念が自分の中に残りなかなか脱けない感じだった。イタコとしてはまだまだなんだろう。

インタビューは毎回非常にエネルギーを使う。もっと効率的にできるとは思うけれど、そうするとすごく大事な何かを失う気がして、わたしはそれをしないようにしている。それでいいのかどうかはまだわからない。でも、今はそうすることが一番良いような気がする。

「心が裸になっていく気がする」
と柿次郎さんが言った。
インタビュイーにとって裸になることは、いいことだろうか? 悪いことだろうか?
それは裸になる過程、裸になったあと、どちらで決まるのだろう?
わたしはその裸に敬意をはらいたいと思う。裸であるということは、それだけでうつくしい。

読んだ方から、「柿次郎さんのことがもっと好きになった」という言葉をもらった。
ああ、本当によかったと思った。