文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/05/27(日)

KITAKAGAYA FLEAというブックフェアに出店、二日目。

今日の店番は、最初のうちはひとりだけなので、淀屋橋駅構内にある神戸屋でパンをひとつと、同じく出店されている珈琲屋さんでコーヒーを購入し、ブースの内側に入って椅子に座る。甘いパンに苦いコーヒー。快適な空間をつくることは大事なことだ。

目の前に現れるお客さんは、ほぼみなさん、わたしたちのことを知らない。
それでも、「なんだか気になる」と近寄り、手を伸ばし、本をめくる。そして「わっ」と目を見開いたり「すてき」と微笑んだりする。その瞬間。わたしはいつも、その瞬間に目を奪われてしまう。

前情報が一切なく、ただ自分の直感だけを手がかりに、本に手を伸ばすという行為。
それを目の当たりにするたびに、わたしは中学の図書館のことを思い出す。本棚にあるのは、ほとんど見たことのない作家の名前だった。タイトルと、作家の名前と、表紙の絵だけが頼りだった。長らく誰にも開かれていないページを軽く引き剥がすように開ける、あの感じ。目の前の言葉だけが頼りだった。「好き」「いいかも」「おもしろそう」そう判断するのは、いつだって自分の奥にいる自分だった。

ある女の子が、わたしたちの本を手にとって
「なんて美しいんやろう」
と言った。笑みを浮かべながら、ため息をつくように。
わたしはその表情に目を奪われる。「美しい」と、なんのためらいもなく言えるその勇敢さに。

買ってくださったひとりひとりに、短歌を贈った。
あなたの旅がよきものになりますように。そんな気持ちで、いつも書いている。

「言葉を贈れるというのは、すばらしいことですね」
ある女性が言った。「この言葉を宝物にしますね」と。