文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/06/04(月)

朝、大学生のときに2年間住んでいたアパートへ。

先日ここの一階でカフェをされてる方から連絡があり、「100年後あなたもわたしもいない日に」を届けに行ったのだ。

わたしが学生だったときにはカフェはなかった。ただの暗くてひんやりしたエントランスで、夜には青白い灯りが、銀色の冷たいポストを照らしていた。

わたしが住んでいたのは3階だった。

正方形の部屋で、春には窓を開けると鴨川に咲く桜の花びらが舞い込んできた。玄関と部屋に仕切りがまるでないので冬はひどく寒かった。

洗濯機は共用で、エレベーターもオートロックももちろんなくて、隣の部屋の芸大生は夜な夜な家飲みをしてうるさかったけれど、薄暗いエントランスを出るといつもぴかぴかの鴨川の緑があって「リバーサイドハイツ」というわかりやすい名前も好きだった。

卒業後足を踏み入れるのは初めてで、ふわっと時間が狂う感じがした。わたしはそうとうぼんやりしていただろうなと思う。階段から自分が降りてきそうで、さっさと出てきてしまった。そのとき一枚だけ写真を撮った。

エントランスから外に出ると、あのころ毎日見ていた風景がそこにあった。ひとりで朝起き、ひとりで夜寝ていたあのころ。いつかこの風景から出て行くことを前提に過ごした毎日。

子供の座席が前にも後ろにもついた自転車で、その風景のなかを走っていった。