文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/06/10(日)

久しぶりにひとりで散歩をした。郵便物をポストに入れ、それから遠回りをして帰った。雨が少しのあいだだけ止まっているような曇り空のなかを、化粧もしていない顔で歩く。車の窓に映った自分が子供じみているようにも年老いているようにも見える。この一年で5キロほど体重が落ちた。最近ではあまり食欲もない。少し食べると満足してしまい、それ以上食べると胃が痛くなる。

パーカーのポケットに手を入れたままゆっくりゆっくり歩く。歩いたことのない通りを歩いてみたら、古い喫茶店と焼きそば屋さん、そして品数の少ないダンボールだらけの果物屋さんを見つけた。いつかここに来ることがあるのだろうか? ゆっくりゆっくり歩く。

うちの近くには大きな病院があるのだけど、大きな病院の近くに住むのは良くないという人がいる。だけどわたしはこの病院のそばを通るのが好きで、時々見上げてみたりする。夜に見る病院はすごく静かで厳か。いつも工事中のクレーンがふたつ、まるで狛犬みたいに立っている。工事が終わらないで、ずっとあそこにあればいいのに。赤と白のクレーンを見ると心が落ち着く。

携帯電話の待ち受け画面を変えた。ある人が撮った、窓から見た曇り空の写真である。そういえばわたしは窓から見る風景画が好きだな、と、散歩中に携帯電話を取り出し、またお尻のポケットに入れながら思った。
ホッパーもワイエスも、好きになったのは窓から見た風景画がきっかけだった。たぶん窓というものが好きなんだろう。
病院のそばを通るのが好きなのは、いずれ自分が見る風景のなかに、自分がいるからかもしれない。

中上健次の短編『重力の都』を読んだ。女は両目に針を突き刺してほしいと男に懇願する。それを聞き入れる主人公の男はとてもやさしい男だな、と思う。

今朝編集者と電話をした。やぶれかぶれだった心が落ちつきを取り戻し、書けそうな気がした。たぶんまた、新しく書ける。