文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/06/20(水)

ものを書いているときまったく音楽を聴かないのだけど、1日に数十分、隣の家からフルートの音がする。わたしの母と同い年くらいの女性が吹いていて、彼女はわたしたち親子にとてもよくしてくれる。「うるさいでしょう? へたくそな音で」と言うけれど、全然気にならないし、むしろ、聴こえるほうがいい。今日も練習をしているな、と思う。

神様のお話をしにくる女性も母と同い年くらいだが、このあいだまでは彼女の話を終わらせることがなかなかできず、居留守を使うこともできなくて悩んでいた。今では彼女がチャイムを押しても、動じずに居留守を使うようになった。わたしは返事をすることなく、窓を開けたまま、原稿を書き続ける。これは、退化だろうか進化だろうか。

富士日記』『アンネの日記』『八本脚の蝶』をテーブルの上に起き、時折原稿のあいまにそれらをぱらぱらめくっている。どれも女性の書いた日記文学だ。それぞれまったく書き方が違うので、日記とは本当に自由なものだなと思う。
わたしも長いこと日記を書いてきた。今はここに書き付けているけれど、以前は勤めていた会社が日記帳を出していたので、それを使って夜眠る前に書いていた。
その時間がいちばん安心できた。きょうもやっとここまでたどりついた、といつも思うのだ。そのときだけは、完全にひとりだった。

フルートの音。チャイムの音。
わたしが彼女たちの年齢になったときには、何をしているだろう。
多分、本当に性懲りも無く、書いているのだろうと思う。

明日は東京へ取材に行く。

「世界は君が思っているよりも、君にやさしいよ」
と言った編集者の言葉が、ふと何度か頭に浮かぶ。