文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/07/04(水)

昨日の続きを書く。

原稿を出したあと、編集者から電話があった。彼は
「本当に、すばらしい」
と言った。

「これを書くのは大変だったでしょう?」
そう言われ、正直に「大変だった」と言った。
「そうだと思うよ。本当に、お疲れ様でした」

その言葉に、どれだけ救われたか。
大変だったのだ。こんなこと言うのはまったく格好悪いのだけど、本当に大変だった。

手の届かないところに手を伸ばし、見たくないものを無理やり見た。
まったく書けなくなったときには、書くことがないのではなく、書きたくないことがあるのだとわかった。
わたしは、思い切って手を動かした。おそらく、見たくないものが目の前に現れる。それでも、書いた。顔は歪んでいたと思う。書いてみて、「ああ、これが書きたくなかったことか」とわかった。そして、それを書かないと前に進めなかったことも、わかった。


編集者は、電話を切るときに「ありがとう」と言った。
わたしはとても驚いた。お礼を言われるだんて、思ってもみなかったから、動揺した。
「こちらこそ、ありがとう」
それで、力強く、そう返した。