文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/07/17(火)

取材で名古屋へ。作業療法士の方にお話をうかがう。
「そのひとらしい生活にできるだけ近づけるように」と彼女は何度かおっしゃっていて、素敵な言葉だなと思った。わたしらしい生活って、すごくささやかなことなんだろう。自転車を漕いで京都の街を走るとか。箸を使って卵をかきまぜ毎朝卵焼きを作るとか。本のページを一枚一枚めくるとか。こうしてキーボードを打つとか。ノートに文字を書き付けるとか。話をしていて何度か泣きそうになる。人間というのは、ただ生きるだけではないんだな、と思う。ささやかでも、小さなことでも、そのひとらしさを形成するものはすべて尊い

フォトグラファーの方とディレクターの方と三人で、帰りにごはんを食べる。せっかく名古屋に来たので何か名物を食べましょうということになり、名鉄百貨店でひつまぶしの店に来たら二時半だというのに行列ができていた。すぐに諦め、隣の隣のみそかつ屋さんへ行く(隣は味噌煮込みうどん屋さんだった)。

そこでフォトグラファーの方が最近読んだ本の話をした。
「人はものを作るとき、まず独り言から始まる、と書いてあったんです。独り言から始まったものが、ある形をもって人に伝えられ、そこで対話が生まれる。モノローグからダイアローグへという順序をたどることが、ものを作るときの道筋だと」

そしてフィルムとデジタルのカメラの違いの話へと続く。
フィルムカメラはモノローグ的で、デジタルカメラはダイアローグ的と言えるかもしれません。フィルムは撮ったものすべて「よし」なんです。現像された写真が答えであり、独り言の結果である。でもデジタルだとその場で写真が見れてしまうから、そこですぐダイアローグが生まれる。自分の中の他者が批評しはじめて、そこで良し悪しが判断されてしまう」

そんなことをフォトグラファーの彼は言っていた。
とてもおもしろい、とわたしは言った。彼の読んだ本のタイトルを教えてもらったので、読んでみようと思う。