文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/08/05(日)

最近日記を翌朝に書いているのは、夜に書く時間がまとまってとれなかったからだけど、これはこれでいいような気がする。その日じゅうに書く日記はまだ固まりきっていないときがあるけれど、次の日に書く日記はよく冷えたゼリーのように、固体としてぷるぷるしている。
だから「今日は」と書くのがいいのか「きのうは」と書くのがいいのかわからないけれど、表題の日のことを書くのだからいっそこの言葉は不要なのだろう。


夜、居酒屋でごはんを食べた。カウンターに座っていたのだが、テレビがついていたのでつい見入ってしまう。まわりがうるさくてもいいように、字幕表示がされていた。番組は「甲子園選挙」というもので、甲子園ファンが選ぶお気に入りの選手を、ランキング形式で発表していた。

すごい選手というのは、1年生のころからレギュラーであることが多い。そして打つのも投げるのも上手なようだ。まわりの人間は「野球センスがすごい」とか「才能を感じていた」などと言っていて、そういうことなのだろうなと思う。

名前は忘れてしまったけれど、あるピッチャーが決勝で、ずっとキャッチャーのサインに首を振り続けるシーンがあった。彼はカーブが得意な投手で、キャッチャーはいちばん最初に「カーブ」というサインを送っていたらしいのだが、首を振っていて、でも最後には結局カーブを投げた。
「なぜ首を振り続けていたのですか?」
記者会見でのその質問にわたしは「どの投げ方にしようか決めあぐねていたため」と答えるのかなと思っていたら、彼は
「せっかくの決勝のあの雰囲気を楽しみたかったから」
と笑った。

その笑顔を見て、ぞくっとした。大物だねえ、とわたしはカウンターでビールを飲みながら言う。
名前を覚えておこう、と思ったが、名前を覚えるのが苦手なわたしは案の定忘れた。
目の大きな男の子だった。