文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/08/14(火)

午前中、4のつく日に更新する『柳下さん死なないで』という連載記事を書く。
この日にはこの記事、という〆切がわたしにはいくつかあり(すべて編集者が設定した)、「大変だね」とよく言われるのだが、でも〆切を設けることで生まれた文章はたくさんある。書きたくなったときに書く文章もいいと思うけれど、書くことが決められているほうが、当然のことながら定期的に書ける。

この日記だってそうだ。毎日書いてみてはどうか、と編集者に言われ、それからずっと書き続けている。
「今日あったことを書けばそれでいい」
そう言われたのでそうしている。自分のなかでハードルを高く設定しないというのが続くコツなのかもしれない。おもしろいことやためになることを書こうとか、あまり考えていないし、その必要はないのだと思う。そういう文章が、わたしも好きだから。

長男の廉太郎が、夏休みの宿題である絵を描いていた。
動物園の動物の写生だが、あまりに暑すぎて外では描けなかったらしい。写真を見ながら、クーピーで描いている。
何度も描いては消しを繰り返しているので、「どうしたの」と訊いたら「へたくそだとわらわれんねん」と言っていた。

「誰に」
「六年生の子に」
「笑わないよ」
「笑うよ、ぜったい。だから、うまくかかなあかんねん」

あんまり苦しそうに描くものだから、
「もし六年生の子が笑ったら、ママがその子をぶっとばしてあげるよ。だから、好きなように描きな。廉太郎が描く絵なら、ママはどんな絵でも嬉しいよ」
と言った。そうしたら、彼は「ぶっとばすのはだめやとおもう……」と言いながらも少し笑って、トラの絵を描きあげた。

ななめ左上に配置し描かれたトラが、おりの中でさみしそうに、うつろな目でこちらを見ている。まさに、廉太郎が見た風景はこんなだったのだろうなと思った。
「廉太郎!」
わたしは思わず声をあげる。
「とてもすてきな絵!」
廉太郎は恥ずかしそうに、にこにこ笑った。

わたしは編集者に言われていることを、子供に言っている。
「君は君の書きたいものを書けばいい。僕はそれが読みたい」