文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/10/29(月)

四条烏丸スターバックスで編集者と会う。長編小説『戦争と五人の女』の打ち合わせ。この打ち合わせが始まる前に、彼はmessengerで「エウレカ!」と叫んでいた。「エウレカ」とは何かな?と思い調べてみると、何かを発見したときに使われる感嘆詞であるらしい。打ち合わせで会った彼は、その発見したアイデアについてわたしに話してくれた。

目の前の分厚い原稿(初稿と二稿)を見ながら「わたしの小説だ」と思う。久しぶりに見たわたしの小説。まるで生き別れた自分の分身を久しぶりに見たようで、向こうからは今の自分はどう見えているだろうかと思う。少し涙が出そうになった。

編集者はわたしよりもずっとこの小説のことを読み込んでいて、この小説に含まれたテーマを丁寧に正確に読み解いてくれる。そのことが本当にありがたい。ひとつのテーマが見えると、小説がまた解像度を上げたような気がした。手が少しぴりっとした。そのことが嬉しかったけれど、もちろん怖気付いてもいる。だけど、書くしかない。ここにないことは書かなくていい。ここにあることを書けばいい。

自分から生まれたのに、自分のものではないみたいだ。小説はそういうものなのかもしれない。手から生まれたはずなのに手に負えない。

「小説はすでに君のなかにある」
編集者はいつもそう言う。彼がそう思うのならそうなのだと思う。わたしの手はその産道でしかない。それでいい。産める限り、産みたい。