文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/12/11(火)

保育園のころ将来の夢は「けーきやさん」。小学生の頃は「ほいくえんのせんせい」、中学生のときは「弁護士」、高校生のときは「司書」だった。どれも本当になりたかったものではない。そう言うと喜ばれる、という感じがする仕事を選んでいたように思う。

「図書館司書になりたい」と言うと、国語教師にこんなことを言われた。
「多分あんたは司書にはならんで、人と話したり文章を書く人になるじゃろう」
彼女はわたしに、放課後いつも大学受験のための小論文の書き方を教えてくれていた。彼女のもとでいくつも小論文を書いたが、少しずつコツがつかめて上達するのが自分でもわかった。受験の直前に書いた最後の小論文を読んで、彼女は上の言葉を言った。それは自分でも、これまでで一番のできだと思うものだった。

彼女はわたしが卒業するとき、『「いのち」についての60の手紙』という本をくれた。
「ええ本じゃけえ読みんさい」
と言って。

実はわたしはその本をまだ読んでいない。でも、15年間必ずその本はどこに引っ越すにも持っていっていて、今も手元にある。

なぜ読んでいないのかというと、それを読むと先生との関係が終わってしまうような気がしたからだった。まだ読んでいないという状態が、わたしには大切なのだった。

だけど今は、それを読んだらまた先生との関係が始まるのではないかと思っている。


彼女は現在母校で校長を務めているらしい。
きつい坂の上にある古い学校。「質実剛健」という理念が書かれた大きな石が校門のところにあって、制服はすごく地味なブレザーで、靴下は白しか許されない。

会いに行ったら思い出してくれるだろうか。
珍しい名前だから覚えてくれていたらいい。