文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2019/01/22(火)

文章を書いていて指が止まったときには、よく本棚から本を取り出して読む。どの本を読もうかな、と迷うことはほとんどなく、「ああ、今この滞りを打破してくれるのはあの本だ」とだだだとダッシュして階段をのぼり、自分の部屋の本棚から探し出す。

今日は江國香織さんの『十五歳の残像』だった。多分わたしはこの世でこの方の書く文章がいちばん好きだし、これまで生きてきた中でもっとも多くこの方の文章を読んできた。

この本は江國さんが24名の男性にインタビューした本だ。江國さんの主観をベースに、彼らの言葉がちりばめられている。

 

「子供がそのまま大人になったような人、という言いまわしがありますが、あれは変だと以前から思っていました。誰だってみんな子供がそのまま大人になるわけで、それはもう単純に事実だと思うからです。

一歳の自分も九歳の自分も、十五歳の自分も二十歳の自分も、全部現在の自分の中に潜んでいる、と思うと奇妙な気持ちがします」

「たぶん、私にとって最初で最後のインタヴュー集です。聞き手のつたなさにもかからわず、一人の男性の中に積み重なっていく個人的な時間や物語、その特殊性や一回性、時代を映した色とりどりな豊かさを、垣間みせて下さったお一人ずつに、あらためて感謝しつつ」

わたしは彼女の文章が本当に好きだ。
彼女の文章を読んでいると、学校を休んだ日の昼下がりを思い出す。しずかで、清潔で、個人的で、ひとりぼっちで、自由で、それと同時に閉じ込められていて、安心するような。

こんな文章が書けたらいいな。
わたしは江國さんの文章を読むと、いつもとてもシンプルに、そう思う。

彼女の本をわきに置いて、また、書きかけの原稿に向かった。