文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2019/06/26(水)

今日は、父親のことを思い出していた。彼はわたしよりもずっと背が高い。183センチある。人の誕生日を覚えるのが好きで、お祝いするのも好きで、どこかへ行ったらお土産をたくさん買って帰ってくる。人になにかしてやるのが好きなのだ。
父はわたしのことをたいそう可愛がった。「蘭」なんて大げさな名前をつけたのも父だ。そんな名前をつけたら育てるのが難しい子になるよ、と言われたらしいけれど、ずっとその名前をつけるのが夢だったらしい。
父は口下手だったけれど、わたしのことを時々褒めた。よく言われたのは、「声がいい」ということ。
「お前は声がいい。特に、歌声がいい」
よく魚釣りに連れていってくれた。駅のキオスクで漫画とチップスターを買ってもらい、父が釣りをしている間ずっとそれを読んで待っている。帰ったら父はよくそれを唐揚げにして、隣に持ってってこいと、大皿に入れてわたしに持たせた。
手を握ると、恥ずかしがって「やめろ」と言われた。好物のボーロを食べていると「お前は赤ちゃんか」と言われた。自分のことを「蘭ちゃんはね」と話そうとすると、「ばかみたいだからやめろ」と言われた。「髪を切りたい」と言うと、絶対に許してくれなかった。「髪は長い方がええ」と言って。
そういういちいちを、わりとよく覚えているものだなと思う。