文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/12/31(月)

昔から長期休暇やイベントごとなど、非日常というものが全部苦手だが、特に年末年始が苦手だ。一番非日常を感じるからだろうか。長男は妙に浮かれて夜更かしなどしているが、次男は年末年始も関係なくいつも通り過ごしている。次男を見ているとなんだかほっとする。これを書いたら一緒に寝るつもりだ。

今日は午後ひとりになる時間ができたので、家で小説を書いた。まずは目標としていたところまで書き進めることができ、ようやく仕事納めというものができたように感じた。

きのう自分が今年書いたものをまとめたのだが、そのうちのひとつの短編小説『夜の港のわたしたち』を今日は読み返してみた。ずいぶん久しぶりに読み返したので、「こんなことを自分は書いていたのか」と驚いた。読みながらふと、涙を流してしまった。

今でも自分は、夜の海をのぞきこんで、くらくらする感覚を楽しむ癖があるように思う。だけどそんな自分に、この小説を書いた頃のわたしがこう言う。

「もうそがいなことしんさんな」
「船に乗ったらどこでも行けるじゃろう」

 
今から次男を抱っこして寝室へ行き、ベッドに入る。きのう洗ったばかりのいい匂いのするシーツの中で、いつものように本を読もう。

よくがんばった。おやすみなさい。

2018年に書いたもの

f:id:bunchosha:20181230171412j:plain


2018年は「書くこと」を仕事にし始めた年だった。

普段は自分の書いたものをまったくまとめていないのだけど、今年はちゃんと振り返ろうと思う。


【小説】
『夜の港のわたしたち』

故郷の呉市を舞台に、というお題をいただき書いた短編小説。人生で初めていただいた小説の仕事で、書くのに本当に苦労した。一人称、二人称、三人称、会話文、といろいろ試し、最終的にこちらに落ち着いた。


『ソヨンによるニシャーダのためのカレーの話』

『国境なきカレ〜団』というカレーイベントに文鳥社として参加した際、小説付カレーを販売。「スリランカ×韓国で、小説を書いてほしい」というお題を編集者からもらい、スリランカカレーを食べに行って書いた。橋本太郎さんが挿画を描いてくださってとても素敵に仕上がった。こちらはwebでも読めます。


『同棲初日』

初めての紙媒体での小説掲載。お題は「同棲」。
すぐ頭に思い浮かんだのは、社会人3年目くらいの女の子と元バンドマンの男の子で、左京区の茶山に引っ越してきた恋人たちの1日目を書いた。大好きな上海バンドという中華料理店を作中に出したあと、挨拶をしにそのお店に行ったら、店主に喜んでいただけて嬉しくなり飲みすぎたという良い思い出。


もうひとつ、昨年からずっと長編小説を書いている。



【エッセイ】
『好きなことを仕事にできなかったわたしが、好きな人と働いて見つけた自分の「仕事」』

仕事を好きになれなかった20代と、その転機についてのエッセイ。「明日仕事行きたくないなあ」と毎日思っていた、辛い気持ちで過ごしていたあの頃の自分に向けて書いたような文章。働くことについて悩んでいるという方からたくさんご感想をいただいた。嬉しかった。

 

 連載 マガザン壁コラム『京都の街の、音を読む。』

泊まれる雑誌マガザンキョウトの壁にて、京都の愛する場所についてのコラムを書いている。第4回はNICE SHOT COFFEE。 最近は営業時間が短くなってしまったが、長く在ってほしいのでご無理なくやってほしい。岸本敬子さんのイラストもいつもすばらしくて楽しみにしている連載。


連載『ひと駅ごとの小さな旅』

嵐電沿線をひと駅ずつ歩きながら書く、散歩エッセイ。帷子ノ辻駅から担当。京都に住んで10年以上経つが、意外と初めて行く場所ばかりでいつも道に迷う。だけど、この連載のおかげで好きな場所がずいぶん増えている。

 
【インタビュー】
連載『経営者の孤独』

経営者の方と「孤独」について話す連載を始めた。
このインタビューは、毎回すごくエネルギーを使う。経営者の方々に、抽象度が高く、それでいて非常に個人的なお話をうかがうことになる、緊張感に満ちた時間。身を削って書いているのに、そのぶん別の何かが身についていっているような、そんな連載。


連載『スタンド30代』
30歳になったころから書いているインタビュー連載『スタンド30代』。生い立ちからうかがいながら、ひとりひとりの哲学や美学をあぶり出したいと思いながらやっている。同世代の方がかっこいいと誇らしく、負けてられないなぁという気持ちになる。



マガザンWeb

さきの『スタンド30代』の第一回にも出てくれた岩崎くんがやっている、泊まれる雑誌・マガザンキョウト。マガザンでは岩崎編集長がさまざまな人とコラボレートし、毎回ひとつの新しい「ホテル」を作る。わたしは、そんなふたりの軌跡を書き留める役割。さまざまなテーマと「ホテル」が掛け合わされ、毎回話をうかがうのが本当におもしろい。

 

わたしも文鳥社×マガザンで2月から5月まで一緒に空間を作らせてもらっていた。この座談会の全編を書いてくれたのはもてスリムさん。もてスリムさんの文章は、風通しがよくてとてもクール。ファンだったので、書いてもらえて嬉しかった。

 

その間、マガザンで書いていた日記小説。その日に起きたことを小説にするという試みをしていた。「書いてほしい」と遊びに来てくださる方もいて嬉しかったが、「土門さんはそういう期待に一切応えない」と言われていた。自分にとってはそれが大事だった。


ChillOuters

アウトドアをテーマにしたメディア『ChillOuters』でのお仕事。とは言え自分はアウトドア派ではなく超絶インドア派なので、「アウトドア」×「本」ということで軟弱古書店さんという登山や渓流釣り専門の本屋さんにお話をうかがった。元探検家の店主に「探検」についてうかがった上に、おすすめの本まで紹介していただき嬉しかった。


藤田医科大学 OB/OGインタビュー
OB/OGインタビュー一覧 | 藤田医科大学 

名古屋にある藤田医科大学様の卒業生インタビュー。医療の世界は本当に知らないことだらけだったけど、「仕事で大事にしていること」ということを軸にお話をうかがうと、みなさんの熱意や覚悟が伝わってきて、毎回目の開くようなインタビューだった。 


【ブログ】
『子育てランラン帖』

子どもとの暮らしについて綴っているブログ。朔太郎は2歳に、廉太郎はもうすぐ7歳になる。1日と10日 (子どもたちの誕生日)に更新中。


『一週一曲』

自分が副編集長をやっているフリーペーパー『音読』。そのチームのみんなと代わり番こで「好きでたまらない曲について思うがままに書く」というリレーエッセイをやっている。毎回、本当に思うがままに書いている。



『柳下さん死なないで』

 担当編集者である柳下さんのことを書き綴るブログ。柳下さんには「このブログには本当に迷惑している」と言われ続けている。4のつく日に更新中(来年からは14日と24日に更新予定)。

 

【紙媒体】

フリーペーパー 音読 14号『あなたの作品、いくらですか?』精華大学の生徒さんたちと一緒につくった音読。くるり岸田繁さん、デザイナー・イラストレーターの大西晃生さん、陶芸家のアルベルト・ヨナタンさん、そして現代美術家であり京都造形大学美術工芸学科長の椿昇さんに「作品に値段をつけること」についてインタビュー。めちゃくちゃ勉強になった。何度も読み返したい号。


京都精華大学デザイン学部パンフレット

京都精華大学様・デザイン学部の卒展の冊子にて、6学科・各代表の卒業生にインタビュー。6名の学生さんに聞きたかったことは大きくふたつで、「なぜこのテーマにしたのか」「ものづくりで大事にしていることは何か」。10歳年下の彼らからすごく刺激をもらって、インタビュー後はいつもくらくらしていた。


シゼンカイノオキテ『話を続けよう』 ライナーノーツ

www.instagram.com

友達がやっているバンド、シゼンカイノオキテ。彼らの新しいアルバムのライナーノーツを書かせてもらった。前のアルバムを出したときには彼らにインタビューをしたのだったが、10年後にはこうして作品づくりに関わらせてもらって本当に光栄。10年経ってもお互いがお互いの領域で作品づくりを続けているのも、なんだかとてもいい。

---

振り返ってみると、あれもこれも、全部今年書いたんだなあと思う。

何度インタビューをしても、何度記事を書いても、毎回毎回、「どうやって書くんだっけ」と思う。「これまでどうやって書いてたんだっけ」が役に立たないから、いつも0から書き出す感じで、手探りで、ときどき書けなくなったりして。
すごく大変だけど、毎回「どうやって書くんだっけ」ってなってしまって、多分いいのだと思う。

今年はこれまででもっとも書いた1年で、もっともご感想をいただいた1年だった。
書いて、読んでもらえて、嬉しかった。純粋に。


2018年、ありがとうございました。
2019年も、がんばります。

2018/12/28(金)

なにもないところから文字を書くのってすごくエネルギーがいるんだなということをまざまざと思い出した。日記でもないインタビューでもない、小説を動かすための力。

「仕事納め」というものはわたしにはないけれど、今年の営業日と呼ばれるものは終わった。おつかれさま、と自分に言ってもいいのかもしれない。夜はよく一緒に仕事をしている会社さんの忘年会によんでもらったので参加した。おいしいものを食べて、お酒を飲んで、しょうもない話やしょうもなくない話ができるのは嬉しい。ここによんでくれてありがとう、と思う。

2018/12/27(木)

冒頭の一文ってとても大事だと思う。文学史上に名を残す人は大抵がつんとくる冒頭文を書いている。川端康成夏目漱石太宰治も、そらで言えるくらいのインパクトのある冒頭の一文を残していて、こういうのってどういうふうに出てくるのかな?っていつも思う。
わたしは特に坂口安吾の冒頭の一文が好きで、しかもとくに『青鬼の褌を洗う女』のが好きだ。

「匂いって何だろう?」

それに続く言葉もすごく好きだ。

「私は近頃人の話をきいていても、言葉を鼻で嗅ぐようになった。ああ、そんな匂いかと思う。それだけなのだ。つまり頭でききとめて考えるということがなくなったのだから、匂いというのは、頭がカラッポだということなんだろう」

自分が冒頭で悩んだときは坂口安吾の短編集を手にとって冒頭だけを読み歩く。
力を入れると出てこないから、「匂いって何だろう?」という冒頭にうちのめされて、一回腰砕けになることが必要。

小説を書くのには、すごくエネルギーがいる。
これくらいの時間をかければこれくらい書けるというものでもないから、夜がくるまでどれだけか書けているのかわからない。ああ明日は、もっと書けたらいい。

2018/12/26(水)

「星空の中泳ぎゆく最愛のあなたも届かぬ自由を抱いて」

今年詠んだ短歌の中ではこれが一番好きかもしれない。
ときどき、陽が落ちたあとなんかに自転車に乗っていると、この短歌を思い出す。この短歌を詠んだのが夜中に自転車に乗っているときだったからだと思うけれど、口のなかで転がすたびに「ああそっか」と思う。ああそっか自由なのか。そして、「この短歌いいな」と小さく自画自賛する。

短歌の良いところは持ち歩きができるところ。短い歌は覚えられるから、欲しいときにすぐ頭から口を通して取り出せる。そして、きらきらしたかけらのはかない輝きに励まされるみたいな、そんな気持ちになる。

2018/12/25(火)

朝、ツリーの下にプレゼントが届いているのを見つけた廉太郎は、「サンタさんがきた!」ととても喜んでいた。廉太郎が欲しがっていたLaQだったので、「見ててくれたんだ」と嬉しそうにしている。
朔太郎にも「はい、サンタさんから」とプレゼント(車の本)を渡すと、朔太郎は無表情でそれを受け取り、そしてひとこと「ちゃーちゃんの」と言った。自分のものだと宣言したということは、とても気に入ったということである。朝から嬉しそうなこどもたちの顔を見ることができてよかった。

その笑顔を見ていると、自分は何もいらないかもしれないなという気がしてくる。わたしはもう足りているというような。足りない足りないと、いろいろなものを欲しがっていたときは、自分に自信がないときだった。そういうときは何を手に入れても全然足りない。
与えよ、さらば与えられん。多分、わたしはこの子たちの笑顔に満たされているんだと思う。自分がそれを作れたから嬉しいんだと思う。


今日は朔太郎が熱を出して保育園を休んだので、ずっと一緒に家にいた。だんだん彼は成長して、ひとり遊びが上手になってきている。黙々ともらったばかりの本をめくっていた。お昼ご飯を食べるときもずっと手元に置いて。


『経営者の孤独』の第6回を公開した。この記事を今書けてよかった。今年はそう思ってばかりな気がする。書きたいものを書けている、ということなのかもしれない。

わたしは自分を受け入れて生きていきたい。「ある」ものを「ない」と言わないで、ちゃんと「ある」のだと言い続け、そのことを認めたり、喜んだり、悲しんだり、祝ったり、していきたい。