文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/08/12(日)

脚本家の近藤さんと初めて話す。
「書けないなってとき、ないですか?」
すっぽん鍋を食べさせるという店に移動しているとき、自転車を押している近藤さんと並んで歩きながら、そう尋ねてみた。

「毎日、書けないですよ」
「書けなくても、書かないといけないときは、どうしているんですか」
「書けなくても、脚本に向かうということが大事なので、じっと座って向かっています。それからヘッドフォンをつけて、爆音で音楽を聴いています。そうして脳を疲れさせないと、どっか行っちゃいたくなるんです」
「ダンテの神曲がかたわらに置いてありましたね」
「ダンテ、埴谷雄高小林秀雄の本をよく読むんですよ。彼らの文章を読むと、なんだか自分も書けそうな気がして」
それはなんかわかるなと思った。わたしも、どうにも書けないときには太宰治アゴタクリストフの文章を読むことがある。彼らの文章はリズムが心地いい。そのリズムに乗っていると、自分のなかから引っかかっていた言葉が出てきそうな気がする。

「書けなくて申し訳ないって思うこと、ないですか」
「もちろん申し訳ないけど、何かありそうだけど何もない脚本を出すよりましじゃないですか。何かある脚本を今目一杯考えているんだって僕は思ってるし、それはみんな知ってくれているから、申し訳ないとは思ったことないですね」