文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018/09/09(日)

水族館へ行く。人混みは苦手だが、くらげが好きなので、くらげを見られるのは嬉しい。アカクラゲは本当に美しい生きものだと思う。
イルカのショーを見ていたら、彼らのいじましさにふと泣きそうになった。チンアナゴは奇妙な生き物だなと思った。エイの裏側は、笑った顔みたいだ。
ソフトクリームが案外おいしくて、たくさん食べたら長男に怒られた。次男は多分初めての水族館で、おそるおそる水槽のガラスに触っていた。

2018/09/08(土)

友人と、上海バンドという中華料理店に飲みに行く。
今月発刊予定の雑誌に短編小説を書いたのだが、そこに上海バンドのことを書いたのだ。左京区に住む恋人たちの話である。

注文のときに名乗ると、店長は
「あの小説を書いた人か!」
とびっくりして、「書いている人は男だと思っていたなあ、なんでやろう」とおっしゃった。「えらい女心わかってはる人やなあって。そうか、女性やったのか」

友人と仕事の話や創作の話をしながらテーブルで飲んでいたが、途中からカウンターで飲みませんかという話になり、カウンターで店長も交えて話す。
友人がリュックサックから『100年後あなたもわたしもいない日に』を出してくれて、店長に「ぜひ読んでみてください」と渡してくれた。こうして一緒に飲む日に、リュックに入れて持ってきてくれていたのが嬉しかった。この話もしようと思って来てくれたのだろうかと思う。

店長はわたしの歌集を読んで「おもしろいなあ」と言った。
「メンヘラでもない、母親でもない、あなたという女が書かれてる」
わたしは驚いて「うわあ」と言った。嬉しかったのだ、なんだかとても。

ピータンとトマトの冷奴、水餃子、水ナスのサラダ、油淋鶏、どれもパクチー八角の良いにおいがしてとてもおいしい。

帰りに、誰もいなくなったお店のなかから店長が送ってくれた。
「あの小説、何回も読んだんですよ。僕はあの小説、不思議と好きやな」
そして最後にそう言ってくれた。


夜1時の出町柳を友人と歩いて帰る。
「話したいことの半分は話せた」
と言っていて、もう半分はまた今度話そう、と返した。

夏と、夜と、雨のにおいがした。

2018/09/07(金)

きのうのプールから学んだのは、「何も考えない」「力を抜く」「今だけを感じる」、この三つがある時間を過ごすと、その後よく集中できるということだった。
これは眠りにも共通するものかもしれないと思い、午前小説に取り組んだあとに、少しベッドで横になる。

寝そべりながら、血が頭や目に集まっているのを感じる。
その血を、おなかまで吸い降ろすイメージで、薄暗い部屋でじっとしていた。

「自分自身にしっかりと根付いていること」
フロムはこのことを、愛することができる人の条件としてあげていたなと思う。
書くことと愛することは、わたしにとってとても似ている。

血を降ろし、降ろし、お腹を温める。
自分にしっかりと根付いていること。ひとりを受け入れること。

2018/09/06(木)

スケジュールを考えると無理があるような気がしたけれど、「今泳いだほうがいい」と思い、プールに1時間だけ行く。
3週間ぶりだったので、泳ぐのがまた下手になっていた。25mをやっと泳ぎ、コースをくぎる浮きをくぐって、ウォーキングのコースに帰る、を繰り返す。
「息を吸わないと」「他の人が後ろにいるかもしれない」そういうことを考えると急に苦しくなって軽くパニックになる。そうか、何か考えるとだめなんだなと思い、「なんも考えない皮袋みたいになろう」と考えた。
そうすると50m近く泳げたので、「やっぱりそういうことなんだ」と思う。

帰ってからお昼を食べ、キャッチコピーを作り、テープ起こしをし、小説の改稿をした。今日やろうとしたことが、午後から一気にできたので、やはり泳いでよかったんだと思った。

何も考えない時間。力を抜く時間。「今」をただ感じる時間。
わたしに必要だったもの。

2018/09/05(水)

明日は父の誕生日なので、奈良漬を買いに行く。父はひどい偏食で、食べられるもののほうが少ない。そのうちのひとつが奈良漬なのだった。

父とは13歳のときに別居しているので、他の人の「父」よりも距離がもしかしたら遠いかもしれない。思春期に離れることができたので、衝突をしないで暮らすことができた。わたしは母を泣かせるよりも、父の傷ついた顔を見るほうがいやだった。父の前だと、優しくしっかりものの女の子を演じるところがあった。

多分いまでもそうなのだ。奈良漬は、父が仕事から帰ってくる、遅い時間に届くようにした。

2018/09/04(火)

台風が来たので子供達が休みになり、家で見ながら仕事をした。締め切りがひとつあったので、次男を膝に乗せながら原稿を書く。打ち出される文字を見ているのがおもしろいらしい。手が止まるとキーボードをたたけと言い、それがかなわないと泣くので参った。なんだか機嫌が悪かった。

義母から宅急便が届いたので、箱を開けてみるとプリンやケーキが入っている。電話をしたら「最近どんどん痩せていっているから、これを食べて元気を出して」と言われた。義父とランチに行ったレストランで買ってくれたらしい。出かけた先で思い出してくれたことがうれしく、心からお礼を言った。わたしは将来お嫁さんにそんなことができるだろうか。さっそくプリンを食べたら濃厚で非常においしかった。

原稿を出し、ブログを一つ書く。

2018/09/03(月)

1日書き仕事。明日は台風らしいので、『100年後あなたもわたしもいない日に』を発送する。

学童に長男を迎えに行く。帰り道、ぬいぐるみを買いたいと思っていると長男に話したら、「だれに?」と聞かれたので「自分に」と答えた。すると、長男は少しぎょっとした顔を見せた。だけど、ぎょっとしてはいけないと思ったのだろう。すぐにその表情を隠し、「ぼくもほしいな」と言ってくれた。そうか、親がぬいぐるみを欲しがると、子供は心配するものなのだなと思う。

夕飯後、お皿を洗っていたら、後ろから長男に声をかけられた。
「ママは、ぬいぐるみとぼく、どっちがすき?」

驚いて振り返り、「そんなの廉太郎に決まってんじゃん」と答える。
するとほっとしたような、恥ずかしそうな顔をした。