マガザン×文鳥社特集「私小説」
2018年2月5日(月)からマガザンキョウトで始まった、特集 私小説『宿に小説家が居る。』がもうすぐ終わる。「小説家」とは、私のことだ。土門蘭、小説家、京都在住。昨年2月に、執筆中の小説の担当編集者である柳下恭平氏と、文鳥社という出版社を立ち上げ…
最終日。いつもと同じように自転車を停め、いつもと同じように宿を開ける。中に入ってブラインドを開けると、そこに岩崎くんが立っていた。自転車を停め、中に入ってくる。まだ電気がついていなかったので、彼がつけてくれた。「今日で最後だね」三ヶ月間ど…
朝、きのうのトークイベントに来てくれていた春乃ちゃんが家に来る。整体師の彼女に施術をしてもらった。わたしの裸足を、彼女の裸足が踏む。彼女の手が、わたしのからだを温めてほぐす。彼女の肌はとてもあたたかくやわらかくて、力を入れずともわたしの中…
朝から夕方までひたすら書き、インタビューの原稿をひとつ仕上げた。テープ起こしをするに時間がかかる人がいる。そういう人は、無駄な言葉がほとんどなく、一言における密度が高い。そうなると、一回一回止めて書き留めることになる。言い方もしっかりと聞…
宿へ。ここに来るのもあと1回だと思うと、急に視界が広がって驚いた。内側から見る外の景色、通り過ぎる人たち、やわらかく差し込む日光、ひんやりとした土間。階段の壁に取り付けられた本棚から一冊本を取り出す。思えば、ここで本を手にとるのは初めてだっ…
宿での「私小説」特集もそろそろ終わる。今日は家で、この特集についての鼎談記事を書いていた。それが終わり、次の原稿のテープ起こしに取り掛かる。予定を組んだときからわかってはいたことだけれど、小説の改稿がどんどん先延ばしになっている。こわい。…
前職の先輩からメッセージをいただいた。会社ではほとんどお話をしたことのなかった方だ。彼女は『100年後あなたもわたしもいない日に』を読んでくださったという。長文の感想を、わたしは何度も何度も読んだ。「蘭ちゃんにとっての言葉が、世界と蘭ちゃん自…
短歌を詠み始めたのは1年前の今日だ。そういえば確かに、こんな感じの気候だった、と思う。そのときわたしはまっさらな手帳を持っていて、それを埋めるように、1日1首短歌を詠もうと思っていたのだ。日記みたいに。それまでにもいくつか詠んだことがあった。…
外から信号機の音とかデモの声とかが聞こえる部屋のなかで、わたしはシーツのなかにうずくまっていた。カーテンの隙間から、夏のような日差しが入り込んでくる。漫画を3冊、小説を1冊読み終わって、2冊目の小説にさしかかる。新品のノートは罫線がないのを選…
力尽きた。閉じこもり、本を読む。吉本ばなな『白河夜船』アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』益田ミリ『週末、森で』「舟から腕を伸ばして、流れる水面に手を入れるような読書も、時には必要だと思うな」日が暮れ、お腹が空いたので外に出た。ひとりで…
朝から晩までひとと会う日だった。今日は書けなかった。
宿に行き、荷物を置く。今日は天気が良い。宿には誰もいなくて、土間はひんやりとしている。元牛乳冷蔵庫だった白い小部屋には、今、これまでの日記小説が1枚1枚出力されて展示されている。わたしはじっくりと、それらを読む。こんなことを書いていたのか、…
締め切り前になると、胃が痛くなる。自分の文章がいいのかどうかわからない、思うように書けていない、なかなか完成しないときなど、重いし痛い。この痛み、重さは、文章を書かないと消えない。指先から文字として痛みが外に出ていっているのではないかと思…
近所で時折、鳩やとんびにえさをあげている女性を見かける。彼女が誰かと一緒にいたり、話しているところを見たことがない。彼女はぱっ、とパンくずのようなものを空に投げる。そこにとんびが風を切って飛んできて、見事にくちばしでキャッチする。わたしは…
午前中家で原稿を書き、午後、宿へ行く。宿でも書いていたら、入り口から視線を感じた。顔をあげると、おそろいで色違いの花柄の上着を着た男性と女性のカップルが立っていた。ひだまりの中に立つふたりは春そのもので、わたしは思わず目を細める。そして鍵…
朝からどうにもやる気が出ない。暗い気持ちだ。理由はないような気もするし、全部が理由になりえるような気もする。気分的なものだと思う。このままベッドで横になっていようかと思ったけれど、それでは何の解決にもならないどころかこの状態が悪くなってし…
午前中は喫茶店で書く。そのあと気圧の急激な低下により頭痛がひどくずっとベッドで寝ていて調子が悪かった。わたしは気圧にとても左右される。雨の前はとくにひどい。今日は夕方から雨が降った。夜、友人の結婚パーティへ。そこで大学時代仲のよかった友人…
【心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・眼球】今日柳下さんがTwitterで、免許証の裏にある「臓器提供に関する意志表明」をじっくり見てみたと言っていた。わたしも免許証を取り出して見てみた。上記がその「臓器」のリストで、臓器提供に承諾したひとは、提供…
テープ起こしをしている。わたしにとってインタビューとはとても身体的な行為だなと思う。話の内容が頭に残っていない。残っているのは、とても話したということだけだ。学生のころ無我夢中で友達と話したあとに、疲労感と満足感をもって「いろんなこと話し…
小説にタイトルをつけるのは、いつも最後の最後。書き終わって、読み返してから、つけている。今日、短編小説にタイトルをつけた。タイトルをつけると、その小説が質量をもつ気がする。手のひらの中で。そう言えば、ひとつひとつの短歌にはタイトルがない。…
森へ行った。森のなかで寝転び、空を見た。案内をしてくださった方が言う。「風がふくと、まるで水面を見上げているみたいなんです」空には細かい網のように木が葉を広げていて、風がふくとそれらがゆらゆらと揺れてうつくしい藻のようだった。小さな虫がぱ…
柿次郎さんにインタビューをした。初めてインタビューというのをしたのは19のときだけれど、気づいたら10年以上続けてきた。でも、一向にコツが掴めないし、うまくできない。前日からよく眠れなくなるくらい緊張してしまうし。とても不器用なインタビューだ…
宿には行かず家にいた。昔買った写真集を見て、昔好きだった曲を聴いた。そして髪を短く切った。18の、ひとりで暮らしていたときの気持ちに時々戻りたくなる。ひとりで本を読み、ひとりで音楽を聞き、ひとりでふとんを敷いてひとりで電気を消してひとりで眠…
故郷の呉市を舞台にした、短編小説をひとつ書いた。先日仕事として受けたものだけれど、この短編はずっと書いてきた長編小説につながる小説となるだろうから、一回これに集中しよう、と編集者は言った。でもなかなかできあがらなくて、そのたびに「なかなか…
ゆうべは眠るまで短編を書き、今日は午前中に短編を書いた。正午、編集者にそれを送る。鏡を見るとぼさぼさの髪の毛に、めがねが曇ったわたしがいた。どういうわけか、夢中で書いているとめがねが汚れて曇ってしまう。無意識に触っているのだろうか。目が充…
昔くりかえし読んだ短編集を、久々に引っ張り出して読んだ。おもしろくて、切なくて、美しくて、今もまた夢中になって読んだ。わたしは、本当に小説が好きだなと思った。それから、自分も小説を書いた。まだできあがらない。
日中子守をしていたので、夜、晩ご飯を食べてから家を出る。いつも行く喫茶店が閉まっていたので、違う喫茶店に行った。そこで閉店までずっと短編を書いていた。この短編は今回で5回目のアプローチ。「小説は、砂をだんだんと寄り固めていくような感じ」と、…
宿へ。敬子さん来る。敬子さんがビールの小さなグラスを用意するのでなんだろうと思っていると、そこにポッキーをざららと入れて、立てた。敬子さんは、いつもこういったお菓子を持ってきてくれる。それでだろうか、彼女といるとなんだか高校時代の放課後を…
1日子守の日。長男と次男にそれぞれ靴を買ってやった。明日から新学期。長男は小学校にあがり、次男は1歳児クラスへと進級する。長男は銀色のメタリックな靴を選んだ。わたしはアシックスやニューバランスなどもっとオーソドックスなものがよかったのだが、…
編集者の赤入れが入った原稿をもらって、それからお酒を飲んだ。二人で飲むのは久しぶりだ。文鳥社初めての期末の日だと、桜を眺めながらジントニックを飲んでいるときに気づき、乾杯をする。いろいろあったね。そうだねえ。1年前には1年後にこんなふうにな…