文鳥社の日記

京都の出版レーベル・文鳥社の日記です。

2018年2月24日(土)

4章改稿の〆切の日。

宿で、午前中税理士さんと打ち合わせをした。ガラス扉から日光が差し込むなか、ふたりでこたつに入り向き合う。スーツ姿の税理士さんは、土曜日に会うと少し現実離れして感じる。昼前にだし巻き弁当を買いに行き、一緒に食べた。
「最近忙しくて友達と会うのを後回しにしていたけれど、ああこれではいけないなと思ったんです。でないときっと年をとったときに後悔するんだろうなって思って」
とわたしが言うと、
「そのようにひとに言われる前に気づいて、自分で自分を省みることができるのはいいことですね」
と言ってくれた。税理士さんは、放っておくと自分は仕事ばかりしてしまうから、バドミントンの練習を入れるようにしているのだと言った。わたしは休みの日にバドミントンの練習をする税理士さんを想像してみる。からだつきががっしりしているので、速くて強いスマッシュとか打ちそうだな、と思った。

柳下さんが来て、税理士さんが帰り、それから白勢さんが来た。白勢さんは友達が多いひとだ。それでやっぱり白勢さんにも同じことを言った。するとそれを聞いていた柳下さんが
「犀の角のようにただ独り歩め」
と言った。
「なあにそれ?」
ブッダの言葉だよ。君は小説だけ書いていたらいいよ」
「そうなの?」
「孤独じゃないと真の友達なんかできないんだから」
白勢さんはそのやりとりを聞きながら、自分が持ってきたそばぼうろを食べて笑っている。
「多分わたしは気晴らしが下手なんだろうなあ」
わたしがそう言うと、白勢さんは、
「ぼくは自分を機嫌よくするのは得意です」
と言った。とても羨ましかった。

そのあと、しまちゃんが来た。
「あ、そばぼうろ。わたし、そばぼうろの丸いやつが好きです」
そう言って、コーヒーを淹れてくれた。それから一緒にそばぼうろを食べた。しまちゃんは灯油を補充したり、メールのチェックをしたりと、今日もてきぱき働いている。宿を出るわたしたちを手を振って見送るしまちゃんを見て、
「宿の妖精みたいだね」
と、柳下さんと白勢さんが言った。しまちゃんの笑い声が、ガラス扉の中から聞こえた。

白勢さんと別れ、柳下さんと小説の打ち合わせのためにチタチタ喫茶へ行く。
「死ぬまでにしたいこと100個のうちのひとつは、チタチタ喫茶のチョコレートパフェを食べることなんだけど、さっきチョコを食べてしまったんだよねえ」
だからクレームブリュレにしようかな、どうせなら本当にチョコを渇望して食べたくてしかたないときに食べたいじゃない、とメニューを見ながら言うと、
「君はそんな生半可な気持ちでリストに入れたのか」
と柳下さんが驚いたように言ったので、わたしも驚いて顔をあげた。
「食べられるチャンスが今ここにあるのに食べないなんて信じられない、そんなんで「死ぬまでにしたいこと」と言えるのか」というようなことを言われ(びっくりしたので正確な表現は覚えていない)、なんだか悔しくなりチョコレートパフェを注文する。柳下さんもチョコレートパフェを頼んだ。むつみさんが「はーい」と言って、アイスか何かを取り出すのだろう、冷凍庫の扉をばくんと音をたてて開けた。

それから小説の話をした。宿で改稿を読み終えていた柳下さんが、まずよくなったところを挙げて、そのあとより手を加えたり、深めるべき場所について意見を述べてくれた。
そして、いやあ、と一息ついて、
「これは、すごい話だねえ」
と言った。
次は5章の改稿をしようと決まり、〆切をきろうと話していたらチョコレートパフェが届いた。思わず歓声をあげると、むつみさんがひっそり笑う。

チョコレートパフェの生クリームのところを一口食べて、わたしが、
「あ、〆切いつにする?」
と言ったら、
「チョコレートパフェを食べながら〆切はきれない」
と柳下さんが言って、スプーンでアイスクリームを掬った。